「キャッシュフローって何ですか?」と聞く経営者が、事業所を衰退させる
事業所経営令和6年度から、介護サービス事業者に財務状況の公表が義務付けられました。そこで多く受けるのが「キャッシュフローって何ですか?」という質問です。正直、驚きました。保険請求をすればお金が入ってくる仕組みが、経営者の感覚をマヒさせています。
「キャッシュフローって何ですか?」
令和6年4月から、介護サービス情報公表制度で、事業所の財務状況の公表が義務付けられました。損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)の、いわゆる財務三表です。
これをきっかけに、私のところにも多くの相談が来るようになりました。なかでも多いのが、「キャッシュフローって何ですか?」という質問です。
正直に言います。驚きました。
経営者がキャッシュフローを知らずに、どうやって経営をしているのでしょうか。
「公表しなくていい」と「知らなくていい」は違う
先に、制度の正確なところを押さえておきます。
財務状況の公表では、運営法人に適用される会計基準で作成が求められている書類を報告すれば足りるとされています。株式会社や合同会社の多くは、会計基準上キャッシュフロー計算書の作成が求められていないため、厚生労働省のQ&Aでも「必ずしも報告いただく必要はありません」とされています。
つまり、多くの事業所は、損益計算書と貸借対照表だけを出せば済みます。
保険請求が、経営者の感覚をマヒさせる
訪問介護のような保険事業は、サービスを提供して請求すれば、お金が入ってきます。介護はインフラ事業ともいえるので、サービスさえ提供していれば、売上が急になくなることはほとんどありません。
ここが落とし穴です。
一般の会社であれば、仕入れや支払いの時期、入金の時期を見通し、手元のお金が足りなくならないようにやりくりします。それが本来の経営です。
ところが介護では、請求すれば入ってくるという安心感から、この感覚がマヒしてしまいます。
介護報酬が入ってくるのは、2か月後
しかも介護報酬は、サービスを提供した月の翌月に請求し、入金はさらにその翌月です。サービスを提供してから、お金が入るまでに約2か月かかります。
その間も、ヘルパーの給与は毎月払わなければなりません。
- 利用者が増えて売上が伸びるほど、先に出ていく給与が増え、手元のお金は一時的に減る
- 職員を採用すれば、売上になる前に給与と採用費が出ていく
- 処遇改善加算は職員に支払うお金なので、入ってきても手元には残らない
- 返還や報酬の減額があれば、まとまったお金が一度に出ていく
売上が伸びている事業所が、お金が足りなくなる。いわゆる黒字倒産は、介護でも起こります。損益計算書が黒字でも、手元のお金が尽きれば給与は払えません。
衰退する事業所の経営者が陥るところ
お金の見通しを立てず、通帳の残高を見て「今月も払えた」で終わる。これが、事業所を衰退させる経営者が陥るパターンです。
- いくら残れば次の採用ができるのか、分からない
- 2拠点目を出していいのか、判断できない
- 報酬改定で加算が減ったとき、何か月もつのか、分からない
判断の材料がないので、すべてが勘と勢いになります。うまくいっているうちはいいですが、何かあったときに打つ手がありません。
キャッシュフローを作っている事業所は、1%もない
逆に言えば、キャッシュフローを把握できている事業所で、売上や利益率が極端に悪い事業所を、私は見たことがありません。
お金の流れが見えていれば、無駄な支出にも、利益の出ていないサービスにも気づきます。手を打つ時期を逃しません。
ところが、これまで1,000以上の事業所を見てきた私の体感では、キャッシュフローを作成している事業所は1%にも満たないと思います。
「税理士に任せている」は、言い訳です
こうした話をすると、必ず返ってくる言葉があります。
- 「税理士に任せています」
- 「社労士に任せています」
はっきり言います。それは言い訳です。
税理士の仕事は、主に過去の数字を正しくまとめ、税金を正しく計算することです。社労士の仕事は、労務や社会保険の手続きです。これからのお金をどう回すかを決めるのは、どちらの仕事でもありません。経営者の仕事です。
しかも、介護報酬の仕組みや加算、処遇改善の制度まで理解している税理士・社労士は、ほとんどいないのが実情です。介護特有のお金の流れを、専門家が代わりに見てくれると期待するのは無理があります。
まず、何から始めればいいか
いきなり立派なキャッシュフロー計算書を作る必要はありません。まずは、これから先のお金の出入りを見える化することから始めてください。
1. 毎月の入金と支払いを、半年先まで書き出す
国保連からの入金、利用者負担分の入金、給与、社会保険料、家賃、税金。月ごとに「いつ、いくら入って、いくら出るか」を表にします。これが資金繰り表です。
2. 「2か月のずれ」を必ず入れる
介護報酬はサービス提供の約2か月後に入金されます。利用者や職員が増える月は、その分のずれを見込んでおきます。
3. 毎月、予定と実績を比べる
表を作って終わりにせず、毎月、予定どおりにお金が動いたかを確認します。ずれた理由を考えることが、経営の判断力になります。
4. 事業所・サービスごとに分けて見る
運営基準では、指定事業ごとに会計を区分することが求められています。訪問介護と障害福祉など複数のサービスがある場合は、それぞれで見ることで、どこで利益が出ていて、どこで出ていないかが分かります。
とはいえ、最初の一枚を自分で作るのは、なかなか腰が重いものです。私自身も経営者なので、その気持ちはよく分かります。ご相談をいただいた事業所には、キャッシュフローの作成もお手伝いしています。一人で抱えずに、気軽に声をかけてください。
よくある質問
株式会社なので、キャッシュフロー計算書は公表しなくていいと言われました。
公表の義務としては、そのとおりです。ただ、それは「作らなくていい」という意味ではありません。公表用ではなく、経営判断のために、資金繰り表から作ってみてください。
小規模な事業所でも必要ですか?
小規模な事業所ほど必要です。手元のお金に余裕がない分、1か月の見込み違いが、そのまま給与の支払いに響きます。
損益計算書が黒字なら、問題ないのでは?
黒字でも、お金が足りなくなることはあります。利益とお金の動きは、時期がずれるからです。損益計算書と、お金の出入りの両方を見ることが大切です。
まとめ
介護は、請求すればお金が入ってくる事業です。だからこそ、経営者がお金の流れを見なくなります。キャッシュフローを知らないまま経営を続けるのは、計器を見ずに飛行機を操縦しているのと同じです。税理士や社労士のせいにせず、まずは半年先までのお金の出入りを、自分の手で書き出してみてください。
参考資料
- 厚生労働省「介護保険最新情報 Vol.1333」(令和6年11月29日)
財務状況が分かる書類の報告について(会計基準上キャッシュフロー計算書の作成が求められていない場合の取扱い) - 厚生労働省「介護サービス事業者経営情報データベースシステム」
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