運営指導で返還になってから相談しても、できることは限られています
運営指導「運営指導で返還を求められた。助けてほしい」というご相談が増えています。ただ、返還の指導が出てしまえば、基本的には応じるしかありません。しかも特定事業所加算の返還は、処遇改善加算の返還にもつながります。本当に大切なのは、そもそも返還にならないために日々どう運営するかです。そして、その責任を最終的に負うのは代表者です。
「返還になってしまった。助けてほしい」
最近、運営指導で返還を求められた事業所からのお問い合わせが増えています。金額は数百万円から、多いところでは数千万円にのぼります。
もちろん、ご相談を無下にするつもりはありません。できる範囲でサポートします。ですが、はっきりお伝えしなければならないことがあります。
なぜ、数千万円になるのか
返還が大きな金額になるのは、要件を満たしていなかった期間まで遡って返すことになるからです。
例えば、特定事業所加算Ⅰ(基本報酬の20%)を算定している事業所で、基本報酬が月500万円だったとします。加算の分は月100万円で、合わせると月600万円です。要件を満たしていない状態が2年間続いていたと判断されれば、単純計算で2,400万円になります。
毎月少しずつ積み上がっていた分を、一度にまとめて返すことになる。経営者からすれば、とてもではありませんが簡単に返せる金額ではありません。
特定事業所加算の返還は、処遇改善加算にも響きます
さらに見落とされがちなのが、処遇改善加算への影響です。
介護職員等処遇改善加算のうち、最も加算率の高い加算Ⅰを算定するには「キャリアパス要件Ⅴ(介護福祉士等の配置要件)」を満たす必要があります。訪問介護の場合、この要件は特定事業所加算ⅠまたはⅡの届出を行っていることです。
つまり、特定事業所加算ⅠまたはⅡの要件を満たしていなかったと判断されると、その期間は処遇改善加算Ⅰの要件も満たしていなかったことになります。その結果、処遇改善加算Ⅰと、本来算定できた下位の区分との差額まで返還を求められるおそれがあります。
先ほどの例で考えてみます。訪問介護の処遇改善加算は、令和8年6月以降、加算Ⅰイが27.0%、加算Ⅱイが24.9%です。処遇改善加算は、基本報酬だけでなく特定事業所加算を含めた金額にかかります。そのため計算の元になるのは、基本報酬500万円に特定事業所加算100万円を足した月600万円です。これに差の2.1%をかけると、月およそ12.6万円。2年間で約300万円が、特定事業所加算の2,400万円に上乗せされます。
なお、障害福祉サービスの福祉・介護職員等処遇改善加算でも、居宅介護・重度訪問介護・同行援護・行動援護では、特定事業所加算の届出がキャリアパス要件Ⅴとされています。重度訪問介護の事業所も同じように注意が必要です。
実際にどの範囲が返還の対象になるかは、指摘の内容(体制そのものが満たされていなかったのか、一部の記録が欠けていたのか)や、指定権者の判断によって変わります。
返し方については、事業所の状況に応じて考えられることもあります。ただ、個別の事情によるところが大きいので、ここでは詳しくは書きません。いずれにしても、返還そのものがなくなるわけではないことは知っておいてください。
返還の後、私がまずやること
返還が決まった事業所をご支援するとき、私が最初に取りかかるのは、返還の対応そのものよりも次に同じことが起きない体制づくりです。
- 指摘された要件を中心に、体制と書類を一から整え直す
- 研修・会議・指示と報告などを、毎月決まった形で回せるようにする
- 担当者が替わっても止まらないよう、運用を外部に任せて仕組みにする
ここまで徹底するのには理由があります。運営指導の結果は、行政にも記録として残ります。一度返還になった事業所は、次の運営指導でその点を重点的に確認されると考えておくべきです。次はもっと厳しく見られるという前提で、体制を作り直す必要があります。
本当に大切なのは、日々の運営
返還の後に体制を整えることもできます。ですが、本来はその順番が逆です。いちばん大切なのは、そもそも返還にならないために、日々どう運営していくかです。
1. 「やっているつもり」をなくす
研修をしている、会議を開いている、ヘルパーに指示を出している。そのつもりでも、記録が残っていなければ、行政には実施したと説明できません。記録で説明できる状態にしておくことが前提です。
2. 毎月、点検する
抜けは、気づいたときにはすでに何か月分も積み上がっていることがほとんどです。毎月、要件ごとに記録がそろっているかを確認していれば、問題が見つかってもその月のうちに直せます。
3. 一人に任せきりにしない
加算の運用をサービス提供責任者や管理者一人に任せていると、その人が忙しくなったり辞めたりした時点で、運用が止まります。止まったことに誰も気づかないまま、返還の対象になる月が増えていきます。
最終的な責任を負うのは、代表者です
ご相談の場では、こうしたお話をよく伺います。
- ヘルパーに任せていた
- サービス提供責任者がやっていなかった
- 管理者から、きちんとやっていると聞いていた
実際にそうだったのだと思います。ですが、行政から返還を求められるのは事業所であり、その事業所の責任を最終的に負うのは代表者です。
誰に任せるのか、任せた仕事がきちんと回っているかをどう確かめるのか。それを判断するのは、経営者の仕事です。だからこそ、役員報酬も高いのです。
「現場のことは現場に任せている」こと自体は、悪いことではありません。ただ、任せたまま確認しない状態は、経営として任せているとは言えません。
よくある質問
特定事業所加算Ⅲだけを算定している場合も、処遇改善加算に影響しますか?
訪問介護では、キャリアパス要件Ⅴを満たすのは特定事業所加算ⅠまたはⅡの届出です。Ⅲ・Ⅳだけを算定している事業所は、そもそも処遇改善加算Ⅰの要件を満たしていません。算定している区分を、あらためて確認してください。
返還を求められたら、分割で返すことはできますか?
取扱いは指定権者(自治体)や事案によって異なります。まずは指導を行った自治体に確認してください。
返還になった後、加算はどうなりますか?
要件を満たしていなかった加算は、基本的に取り下げになります。もう一度算定するには、体制を整え直し、要件を満たした状態であらためて届出をする必要があります。特定事業所加算ⅠまたはⅡを取り下げる場合は、処遇改善加算の区分の変更も必要になります。
自分の事業所に返還のリスクがあるか、どうすれば分かりますか?
算定している加算の要件を書き出し、それぞれの記録が毎月そろっているかを確認してください。自分たちで判断が難しい場合は、外部の目で確認してもらうのも一つの方法です。
まとめ
返還の指導が出てからできることは、多くありません。大切なのは、返還にならないように日々運営すること。そして、現場に任せた仕事が回っているかを確かめるのは、代表者の役割です。運営指導の通知が来る前に、一度、自分の事業所の運用を見直してみてください。
参考資料
- 厚生労働省「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(老発0313第6号、令和8年3月13日)
キャリアパス要件Ⅴ(別紙1表3:訪問介護は特定事業所加算Ⅰ・Ⅱ)、サービス類型別加算率(表1-2)
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書類と運用を確認し、返還につながる不備がないかをお伝えします。

